2019年4月24日水曜日

黒鳥と白鳥

・「1970年代というのは、建物も何も立っていない原っぱがそこらへんにたくさんありました。この道を歩いて行ったところにある坂道を上がるとすぐに大きな空き地があって、幼い頃私は夕方になるとそこに犬を連れて行きました。当時は携帯電話なんてものはありませんから、私はいつもそこで放した犬をただ見ていたんです。でも「心ここに在らず」って言いますけれど、そんな時はいつも何か別のことを考えていましたよね。」

・「水面に映ったのは、シルエットになった私の姿でした。顔を水面に近づけたり、身体を捻ったりもしたのですが、どうしても私の顔は見えませんでした。顔を失った私に見返されていることに耐えられなくなり、指先で水面を触ると生ぬるさを感じるのと共に、水面にできた波紋が私の影を揺らすのを見ていました。」

・「はんこを何処に置いたのか思い出せないときに、私は部屋の中を探し回っているんですけれど、同時に頭の中も探し回っているんです。みなさんもそうでしょう?頭の中を探すっていう時はやっぱり脳内を空間的に考えているように思うんです。もちろん部屋のような明確な三次元の空間ではないんだけれど、部屋の中と過去の自分の行動をイメージしながら、脳の中を探し回っているような感覚ですね。」