2011年12月26日月曜日

 




《焚き火》 (1923年)



sketch


2011年12月20日火曜日

 


1章:ライフルの時代
   9 
    手応えと視覚
    熊狩りについて
    アルコール、車、メディウム

2章:マシンガンの時代   57
    乱れ撃ちと蜂の巣
    赤への誘い
    特殊なものの再生産
        
3章:対象の喪失   97
    ジャングルと荒野
    銃声と幻覚    
    インデックスとエス
 
4章:サイボーグの到来   173
    筋肉とジェンダー
    アイロニカルな騒音
    歪んだ肖像、ナルシシズム

5章:抑圧された場所   217
    退屈とノイズ    
    境界線の往復
    目的なき実験

6章:終末の日常   251    
    善良な人たちからの通達
    情動と心拍
    最後に残ったもの
    
    

contents



2011年12月6日火曜日

 


A 「目をそらさないで、彼が言ったことは当たらなかったじゃない。間違ってたのよ。」

B 「まぁ、そんなに興奮するなよ。」

    Aの両肩を掴み、ソファーに座らせる。

C 「そうだ、そうやってすぐ頭に血を上らせるのがお前の悪いところだ。」

A 「だって、ここでは絶対に発病しないって言っていたのに。」

B 「それはみんな知ってるさ。でも彼が嘘を言うはずないだろう。」

C 「おっしゃる通りです。別の理由があったに違いありませんぜ。たぶんこいつは一回外に出たんですよ。」

A 「そんなことないわ。彼が嘘をついていたんだわ。感染してみんな死ぬのよ。逃げられたはずなのに、私たちはここに留まってしまったんだわ……。」

B 「バカだな。彼が嘘をつく必要がどこにある? 思いつかないだろ。絶対に原因が他にある。確かにこいつが外に出てたってのは、ありえる話だぜ。」

A 「そんなわけないじゃない! 彼はここなら絶対に感染しないと言った。だから私たちはここに留まった。でも感染者がでた。これは疑いようのない事実じゃない。彼が嘘をつく理由なんていくらでも考えられるはずよ。なんでそれを考えようとしないのよ!」

C 「うるせぇな。なんでわかんねぇんだ。」

    Dが部屋の中に入ってくる。
    AがDに歩み寄りながら話しかける。
   
A 「あんたたちじゃ話になんないわよ。」

B 「おい、こいつの持ってるもん全部調べてみろ! 外の人間と通じていた証拠が出てくるかもしれないぞ。」

C 「へい、わかりやした。」

   手袋をし、片方の手で自らの口と鼻をハンカチで押さえながら衣服のポケットや鞄を調べる。

D 「とにかくみなさん、落ち着いたほうがいいですよ。」

A 「落ち着いてなんかいられないわ。ここから逃げないと私たちも感染して死ぬのよ。」

D 「ここから出たら安全だとでも言うのですか? そんなことあるはずないでしょう。あなたは外を知らないから言うんですよ。」

A 「あなただってあれから外になんか出てないくせに、なんで危険だなんてわかるのよ。」

D 「僕はいろいろ話を聞いたんです、彼がそう言っていたと。それにもし仮に、あなたが言うようにここが危険で、外と同様に感染の可能性があるとしても、それでもまだ、ここにいる方がましな選択だと思いますよ。わかるでしょう?」

A 「外のことは聞いた話にすぎないじゃない。外がどうなっているのか、ここにいる誰もが本当のところわからないのよ。」

    Bがベットの方に歩み寄る。

B 「おい、何かなかったか?」

C 「みてくださいよ、こいつチョコレート食ってましたぜ。銀の包装紙がでてきました。」

   鞄から包装紙である銀紙を取り出し、みんなに見せる。

A 「それがなんだっていうのよ。昔食べたときに捨てるのを忘れてたんでしょ。」

B 「いいや、ちがう。これは最近のもんだ。ここではチョコレートは手に入らない。つまりこいつが外の人間と接触した証拠になる。しかもそのことを、こいつは俺たちに黙っていやがったんだ。」

C 「こいつ、一人だけいい思いをしようと俺たちを騙してたんですね。ふざけやがって。」

B 「やっぱりこいつは外に出たんだ。だから感染したんだよ。」
   
    ベットを足で小突く。

C 「自業自得だ。ざまあねえな。」

A 「その包装紙はだいぶ前のもので、捨てるのを忘れていただけよ。それじゃ何の証明にもならないわ。」

D 「いいですか、君がこの人のことを好きだったことくらい僕だってわかってるんですよ。包装紙が見つかったということは、外に出ていたことの証明になると僕も思います。」

B 「俺はこいつのことが最初から気にくわなかったんだよ。妙にずる賢いやつだった。黙って何もしゃべらないで、みんなの行動をじっと見てばかりいやがったしな。」

D 「そんなこと言っちゃいけませんよ。この人が外に出たのは自分のためじゃなく、みんなを助けようとしていたからなのかもしれませんし。」

B 「お前は人が良すぎるんだよ。本当にな。」

C 「まったくおやさしいこって。やさしさはこういう時じゃあかえって、問題の解決を遅らせ判断を鈍らせることもありますからね。実際こいつはつまらないやつでしたよ。みんなを助けようだなんて、少しも考えるようなやつじゃありませんでした。」

D 「あなたたちが言ってることは否定しません。しかしですよ、あくまで可能性があるのですから、そう悪く言ってはいけませんよ。」

A 「なんでみんな彼が言ったことをそこまで信じるのよ。あなたは彼の話を一番疑っていたじゃない。」

D 「あなただって彼の言うことを信じたから、ずっとここにいたんでしょう。」

A  「私は今回のことで彼の企みがよくわかった。全部嘘だったの。私たち全員を殺す気よ。はっきりしたわ。全部つながるの。ああ、付き合いきれない。私ここを出て行くわ。」

    テーブルの上に置いてあるハンドバックを持って出て行こうとする。
    BとCがそれを引き止める。
    ハンドバックを取り上げ、テーブルの上に戻す。   

B 「おいおい、そんなことが許されると思っているのか。外の人間にここの場所を言わない保証がどこにあるんだ。行かせるわけないだろ、お前はずっとここにいるんだよ。」

    DがAの両手首を握りしめ、目を合わせながら話しかける。

D 「大丈夫、もう少しの辛抱です。僕たちは必ずここから出ていける。晴れて自由の身になれるはずですから。」

B 「いいか、無い頭を使ってもう一度考えてみろよ。こいつが感染したのはこいつの責任だ。ここでは絶対に感染しない。こいつを処分しちまえばすべてはまるくおさまるんだよ。みんなが言っていることが正しいと、なぜわからないんだ。」

C 「そうそう、その通りですぜ。」

E 「フフフ…。」

   笑いながら椅子から立ち上がる。

E  「さっきからずっと黙って聞いていたがな、お前たちの考えは全員おかしいんだよ。笑えるな。俺ははじめから言ってただろう。全部天罰なんだよ。俺が言っていることを相手にしなかったせいだ。言った通りになっただろう。お前らはどうあがこうとダメなんだ。神のことについて何も考えてこなかったお前たちへの罰なんだよ。ここから抜け出すためには罪を洗い流すしかないんだ。こいつが感染したのは最も罪が重かったからなんだよ。業だよ、業。お前たちはみんな悔い改めなきゃならないんだ。」

A 「何を言ってるの。意味がわらかないわ?」

E 「彼の言ってることに囚われていること自体が間違ってるんだよ。お前たちは自分が救われようとばかり考えて、原因を人になすりつけ、自分が何をしてきたのか考えようとしない。肝心なことから目をそらして、都合のいい意見ばかり好き勝手に取り入れる。」

A 「い…、いい加減なこと言わないで。」

D 「……。」

E 「自分がいかに醜い人間かってことは、お前らみんな本当はわかっているんだろう。助かりたかったら救われようとするな、そうじゃなきゃ何も変えられないんだ。自分の胸に手を当ててよく考えてみろ。薄々気づいているはずだろう。彼って誰だ? そもそも彼って何者なんだ? さっきから話している彼なんてもんは、お前たちの作り上げた幻想なんだよ。そんなやつ、はじめから存在してなかったんだ。」

B 「なんだと、そ、そんな……。」

E 「 よく思い返してみろ。彼が彼がってみんな言っているけど、彼ってのは一体全体誰なんだ。俺が納得できるように説明してみろ。どうだ、え? できないだろう。できるはずがない。なぜって彼が誰なのか、本当は誰もわかってないからな。」

C 「……。」

E 「どうだ、なんとか言え。図星だろう。」

D 「……彼、彼……僕たちが話していた彼とは、一体誰のことだったのか、なんだかあやふやに思えてきました。話にはあがるものの誰も彼のことをよくしらないんですから。しかし、いまここに僕たちがいるのは彼のおかげなんだし、彼のような人は絶対に存在したはずで……。でも……確かにあなたの言うことは、一理あるかもしれません……。少なくとも、みんな自分のことしか考えていなかった……。自分が救われることしか……。」 

B 「ああ……、はじめは何を言ってるんだこいつは、と思ったが、そうかもしれねぇ……。俺は神なんか信じねぇ。けど言われてみれば、危険から逃れたい一心で、俺たちは彼を勝手に作り上げ、利用していたのかもしれないな。」

A 「どういう脳みそしてたらそんなことが言えるの。こんな狂人の話なんか真に受けてどうすんのよ。私、彼の写真データ持ってるわ。」

   ハンドバックからUSBメモリーを取り出し、パソコンに繋げ、入っている画像ファイルを開く。

A 「これを見てもわからないとでも言うの?」

B 「……誰だ、これは……。この男、俺は知らんぞ。」

D 「ぼくも同じです。これはぜったい彼ではありません。」

C 「こりゃ、まったく覚えのない顔だな。おい、一体どっから持ってきた画像なんだよ。」

A 「ちょっとまってよ、これが彼じゃなかったら一体誰なのよ。だいたい、そんなにあやふやな記憶なのになんで違うなんてわかるのよ。」

B 「そんなこと知るか、こっちが聞きたいね。記憶が漠然としてても違うことくらいわかるんだ。」

D 「もしこれが彼なら多少なりとも引っかかるところがあるはずです。ですが、まったくピンときません。これは彼じゃない。」

A 「嘘でしょ……。」

B 「嘘なんかついてない。」

E 「フフフ…。」

D 「やっぱり初めからいなかったのかもしれませんね…。ああ、ますますわからなくなってきてしまった…。」

B 「確かにそうだな……。」

C 「自分はどうも頭が悪くてよくわかりやせんが、なんだかすっと腑に落ちたような気がしますよ。」

E 「やっとわかってきたか。わかったらよく聞け。この先そういう手前勝手な考えは危険なんだ。危険がさらに深まるばかりだ。それを回避するには、お互いを疑わないことだ。自分のことを優先せずに、みんなでこの危機を乗り越えるんだよ。」

B 「そうだ、少なくとも俺たちは今、バラバラになっちゃいけないのは確かだ。」

D 「そうですね、僕たちは今こそ一つにならないといけない。」

E 「そうだ、自分がいかに浅はかな人間だったか、お前たちはそれを悔い改めて、協力し合わないかぎり、ここからは出られない。お前たちみんなの業が彼を生んだように、さらに事態が悪化するのを食い止めるためには。」

A 「なによそれ、みんなふざけないでよ。私をからかってるつもり。そんなの全然面白くないわよ。笑えないわ。」

    CがAに近づき耳元でささやく。

C 「いいか、お前はしばらく文句を言わず黙っていな。あの包装紙は俺が入れたんだ。俺は誰のことも信じちゃいない。だがな、全員がここから出られるわけないんだよ。今はとにかく従うフリをしとけ。俺がお前を外に出してやるから。」



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