切手の変相
われわれの選択は、つねに、なされてしまっていることに注意しよう。われわれは選んでからあとで熟考するのだ。なぜなら、知る以前に選ぶのだから。一つの職業を仮定しよう。いったいどのようにしてひとはそれを選ぶのか。その職業を知る以前に選ぶのである。こうした選択において、わたしはまず第一に、警戒を怠らぬにもかかわらず起る不注意を、われとわが身を欺いていく一種の陶酔を見るのだ。それはあたかも結婚に際してしばしば見られるごときものだ。しかし、そのような不注意の中にまた人間本来の条件をも見る。けだしひとが一つの職業を熟知するのは、それを長年行なったのちにおいてのみであるから。要するに、われわれの意志は、それがどれほど合理的なものであろうとも、いささかも合理的でない選択から、その能うかぎりのものを救おうと気をつかっているのである。ゆえに、われわれの選択はつねにわれわれの背後にあるのだ。それはちょうど水夫が、一度出発を選んだのちに、浪と風に折り合おうとするのに似ている。 ※1
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こちらへおいで。君、基盤ある生活をお望みで?
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僕は正直に言うと、こんな議論を始めるのがいやで堪らないんです。
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六十歳に及んで知ったことを、私は二十のころ早くも充分に知っていた。
四十年という、この長長しい、なくもがなの検証の歳月…… ※2
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電話だよ!野原で電話がなってるよ!
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必要な勇気と不必要な勇気は違うのよ。
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私が自由だってこと、あなたはご存知ないでしょうね。
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ほら、あの人が通り過ぎて行った。
なんて優雅で単純なんだろう。
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目をつむれば泉
口を閉じれば池
耳をおおえば海
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待ちぼうけをくわされる方がいいんだよ……
ねえ、むこうに何が見えるのかい?
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※1「プラトンに関する十一章」アラン 森進一訳
※2「生誕の災厄」E.M.シオラン 出口裕弘訳
collaborated with Izumi Taki